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[かきもの]猫型定規

 今日も文房具コーナーに立ち寄っている。
 文房具コーナーが好きだ。
 手始めにシャーペンで試し書きする。
 ちょっと細すぎ。
 もうちょっと太い方がいい。
 細すぎるペンで長い時間書いていると、手が痛くなってしまう。
 とりあえず、「あ」から「ぬ」まで書いてみた。
 やっぱり今使っているものの方がいい。
 一緒に並んでいるボールペンも試さないわけがない。3色ボールペン+シャーペンに毎回心引かれてしまう。
 でも、回して色を替えるのも、ノック式もなんか不格好な気がして、買わないでいる。
 というか、文房具が好きなのではなく、文房具コーナーをぶらぶらするが好きなのだから、所有欲はあんまりない。
 文房具コーナーさえあれば、楽しめるのだから、問題ない。
 いくつかのボールペンを試しながら。「は」から「ん」までを書く。やっぱり「ん」は書きたい。
 最近では、この試し書き以外で手書きすることはめったにないのだけれど。
 次の消しゴムは、それほど見るべきものもなかった。あまり変化がない上に、試し消しもできないし。
 棚板に沿って目線を動かすと、物差しがあった。
 アルミ、木、アクリルと、色々物差しがある。
 長さを測るためにあるのに、たいてい直線を書くときにしか使われない不遇な文房具。
 ん?線を引くだけのは、定規だっけ?
 まぁ、そのせいかどうかわからないけれど、長さがあわない物差しもある。
 イチゴ、パイナップル、バナナ、メロンの絵がついているこの物差しと、両側に目盛りのついた透明な物差し。二つの目盛りをあわせてみると、微妙ずれている。1cmの幅が違う。どちらが正しいのかわからない。
 これぐらいの差はきっとどっちでもいい。だって、まっすぐな線を描ければいいんだもの。
 定規の下にはコンパスと分度器があった。
 物差しより使わない。小学生の頃に使ったきり。
 小学校で、隣の子が消しゴムにコンパスの針を刺していた。
 穴のあいた消しゴムは、使っているうちにぐずぐずに崩れていった。そして、また新しい消しゴムに穴があいて、ぐずぐずに。
 席がその子の隣にある間に、いくつの消しゴムがぐずぐずになったのか、ぜんぜん覚えていない。
 私の消しゴムは、ティッシュの布団に寝そべって、角ひとつ欠けずにあったのに・・・

 雲型定規だ。
 これは何に使うのか、よくわからない。
 ナスみたいのや、鉤爪みたいのや、名前そのままに雲みたいのが並んでいる。
 ひとつ手に取ってみた。
 これなんか、出っ張りが動物の耳っぽい。
 そしてこの丸い感じは、猫の背中にちょうどいい。
 じゃぁ、この細い溝はしっぽみたい。
 猫の形は全くしていないけれど、溝や周りの形のそこかしこが猫のパーツをかたどっていた。
 猫好きなら、買うしかない。それに残りはたった2つ。
 レジで870円を支払った。高いかも。

 食事を終え、こたつ入って、うとうとしていると、こたつの上に紙袋が目に入った。文房具屋で買った雲型定規だ。
 こたつに入ったまま、レポート用紙とペンをなんとかひきよせてから、袋をあけて定規を取り出した。
 絵の才は全くない。
 定規に沿ってペンを動かす。
 3回くらいペンを動かすと、なんか猫の輪郭っぽくなってきた。
 フリーハンドだとこうはいかない。
 続けて、しっぽと目と髭を定規で描く。
 最後に定規なしで、鼻を描きこんだ。
 すごい。猫だ。
 自分で猫の絵が描けるなんて、夢みたい。
 右に少し寄っているけれど、何かもたれているかのようで、それっぽい。
 でも、少しよりすぎなので、その右にもう一匹描いて寄り添う猫にしよう。
 また、定規に沿って線を描く。
 間違いない。これは猫を描くためにあるに違いない。
 だって、今も左から寄りそう猫を飼こうとしたら、ちょうど猫がそうしているような曲線が定規にあるんだもの。
 描きあげた二匹の寄り添う猫は、とても幸せそう。
 そして、用紙の空きに猫を描いていく。
 こんなにも絵を描くことが楽しいだなんて。
 猫を描く手が止まらない。
 レポート用紙の残りがどんどん減っていく。
 それにつれて、猫の絵がどんどん増えていく。
 こたつの周りにはレポート用紙が散乱し、その上の猫もたくさんいる。
 どこを見ても、猫がいっぱいいる。
 しまいには猫の声さえ聞こえてきた。
 部屋中に猫がいる。
 かたわらの猫のおなかに手をおくと、ごろごろと音を立てている。
 おなかに頬当てると、温もりと、ごろごろというと音の感じがする毛皮がとても気持ちいい。
 猫に包まれ、猫玉に顔を埋める。

 目を覚ますと、こたつで寝ていた。
 ほっぺには、寝返りで破れたレポート用紙がくっついていた。
 ほっぺからはずしたくしゃくしゃのレポート用紙を見ると、かわいい猫の絵が描かれている。
 かわいい。本当にかわいい。
 自分で書いたとは思えない。
 猫型定規-あれは猫を描くための定規なのだから、その名前がふさわしい-を探す。
 見あたらない、こたつ布団をこたつぶとんをまくりあげても見つからない。
 猫が描かれたレポート用紙の散らかっている様からも夢なんかじゃない。
 財布の中のレシートを取り出しても、「ブング 880」と印字されている。
 そういえば、まだお店にあったはず。
 時計を見ると、もう10時をまわっている。
 急いで身支度をして、部屋を出た。
 取り戻さなくっちゃいけない。
 私の猫を。
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[かきもの]かきもの:洪水

とある村に、おばあさんが暮らしていた。
ある年の夏、幾日も雨が降り続いた。
村の側を流れる川の水があふれ、村を洪水が襲った。
おばあさんの家は川にすぐ近くだったので、おばあさんは隣人と一緒に高台に逃げていた。
雨が上がり、水も引いたので家に戻ってみると、おばあさんの扉の前にずぶ濡れの裸の赤ん坊が泣いていた。
おばあさんは家に赤ん坊をいれ、濡れた体をふいてやった。
不思議なことにいくら体を拭いても拭いても、赤ん坊は濡れたままだった。
おばあさんは気味が悪く思ったが、心根が優しかったので、少女を洪水の子と名づけ一緒に暮らした。

それから7年後、おばあさんは天に召された。
洪水の子の新しい後見人は少女の妖しい力を恐れ、すぐに奴隷商人に売ってしまった。
それから、洪水の子は流れ流れて、水の少ない山岳地帯の村へと売られてやってきた。
その村で洪水の子は村の呪い師に育てられ、村の渇きをいやした。
少女はその村では新しい名前、湧き水と呼ばれた。

湧き水は呪い師にその妖しい力をより強められていった。
そうして、湧き水の力が十分にたまった時が来た。
呪い師は湧き水の力を使い、隣村に流れる川を引っ張り、捻じ曲げ、自分たちの村に呼び寄せようとした。
川は呪い師の望みどおり村へ来た。
そうして、そのまま村ごとすべてを流し去った。
こうして少女は再び洪水と呼ばれた。

少女が向かう先向かう先に洪水が起こった。
少女は自分が災厄の種であること知っていたので、人里を避け旅を続けた。
少女は人の寄らぬ黒く深い森へとたどり着いた。
森は洪水を引き入れ、より深く、より黒く、そしてより人寄せぬ森となった。

王子は森の前に立っていた。
森を越え、急ぎ城へ戻らねばならなかった。
王子は暗い森の中、うっそうとした茂みをかき分けながら進んだ。
突然、王子は足を取られ、沼に沈んでいった。
意識を失っていた王子が目覚めると、彼を覗き込む女がいた。
髪から水をしたたらせた美しい女だった。
王子は名を問うた。
女は答えた。沼と。

王子は沼を連れ、城に戻った。
そうして、沼は王子の妻となった。
二人は仲睦まじく暮らした。
王子が隣国へと行く用事ができた。
王子は沼と離れたくなかったが、父親である王の命令では仕方がなかった。
しかし、これは沼を亡き者としようとするものたちの企みであった。
王子が出かけると、そのものたちは兵を連れ、沼の寝室へと向かった。

王子が用事を済ませ、国に戻ろうとすると、国境から先の自分の国に一切のものがなかった。
山も森も丘も村も城も、何もなかった。
国境の近隣のものたちが言うには、それはもう海が空から落ちてきたかのような勢いの洪水が起こったのだと。
王子は城があった付近まで馬を進めた。
すると、赤ん坊の泣き声がした。
王子は水溜りの中で泣く赤ん坊を抱き上げた。
それから赤ん坊の体を拭いてやったが、いくら拭いても赤ん坊は濡れたままだった。
王子は赤ん坊を連れて国を去った。
赤ん坊は洪水と名づけられた。

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[かきもの](小説・アリアンロッド)スズ・メ物語

(注意)
・ファンタジーがダメにゃ人は見ても、面白くにゃいかも。
・RPGをやらにゃい人は面白くにゃいかも。
・アリアンロッドのルルブは絶対!!ってひとも面白くにゃいかも。


ここにある物語は、オンラインのセッションでうにの使ったキャラのショートストーリーにゃ。

もし、万が一にも興味を持ってくれたら、狐団(http://mixi.jp/view_community.pl?id=83906)の人にログをちょうだいというと、この物語以降の話がわかることでしょう。

まぁ、あんまりセッションとは関係にゃいんだけどね。

ではでは、始まり。




   スズ・メ物語 Before Guild

旋盤や滑車や鉄をたたく音がこだまする通りをスズは歩いていた。

スズは建物の数を数えていた。そしてようやく目当ての数字の建物を見つけた。
建物は土壁でできた平屋だった。通りに面した壁には小さな窓と開け放たれた扉がある。
開いた扉の奥では、職人が旋盤に向かい鉄片を削っている。
職人は扉と反対側に顔を向けて、一心不乱に作業している。

スズは中の男に話し掛けた。
「すみません。人を探しているのですが」

「俺は旋盤工だ。人探しなら他をあたんな。」と、職人は振り返りもせず、言い捨てた。

そのとき、雲でかげっていた太陽が姿をあらわし、スズの背を照らし出した。
建物の中にも扉を通して日の光が入り込む、スズの体と彼女の翼の影の分を除いて。

「・・・天翼族!!」職人は影に気づき、振り返った。「あんたが探しているのはトゥバか?」

「はいっ」
茶色の翼を持った少し大柄な女性、スズはうれしそうに返事をした。



スズにはトゥバという兄がいた。
トゥバとスズは、天翼族である。
天翼族は人よりも一回り体格が大きく力も強い。名前の由来でもある翼を背中に持つ亜人の種族である。
彼らの一家?メ?は、技術者を生業としていた。
兄のトゥバが10歳になったとき、一族のしきたりで、"生まれながらにして技術者の小人"こと、ネヴァーフ族の元へ徒弟として送られることになっていた。
しかし、妹のスズは兄と離れて暮らすことを嫌がり、一族のしきたりの一〇歳をまたず八歳にして、兄とともにネヴァーフ族の下で暮らすこととなった。
それから十年、二人はお互いを支えあい、錬金術を自分のものにしていった。

そんなある日、家族から一通の便りが届いた。

「火急の用あり、至急もどれ。」

その手紙を受け取ったスズは、家族の元に戻る準備をした。
しかし、その時、トゥバは仲間のネヴァーフとともに狩りに出ていた。
スズは友達のネヴァーフから、兄へ使いを出そうかという申し出を受けたが、
「私が戻れば、大丈夫だよ」
と、その友達に手紙を預け、そのまま家へともどった。

家へ戻ったスズを待っていたのは、瀕死の床にある母ウズであった。
スズが帰って数時間後には母は死んでしまった。
トゥバが家にやってきたのは、それから3日も後のことだった。
トゥバは悲嘆にくれ、スズとともに一週間、母親のなきがらの前で泣き続けた。
トゥバは母親の死に目に会えなかったことを家族から責められ、二度と村に戻ることを禁じられた。
トゥバはスズに何も言わず、村を出て行ったのであった。

その後、スズは錬金術の技術を修め、その技術で手に入れたマスケット銃とともに、兄を探す旅に出たのであった。



スズと旋盤工のジンは作業場の間に合わせの椅子に腰掛けていた。
「そうか。あんたがトゥバの妹か。」
ジンは、熱くて濃いお茶をスズに渡しながら、確認した。
「はい。でももう三年は会っていません。
「兄はここにはもういないのですね。」
ここの作業場からして、ジン一人で働いているのがスズにはわかっていた。
「つい一週間前に出て行った。
「ヘルクントに行くって言ってた。なんでも新しい都市らしくて、職人なら誰でも雇ってくれるんだとさ。
「今はおそらく港町デストだろうな。そこから船が出てる。」
「そうですか。」
トゥバがここにいないのは残念だったが、行き先がわかっている分まだ気は楽だ。

「兄はこの町で何を」
職人はお茶を一気に飲み干して答えた。
「うちの機械がいかれたんで、酒場で飲んで愚痴ってた。トゥバはちょうど酒場に親父に、仕事があるか聞いてた。
「そんな二人がちょうど同じ場所に居合わせたんだ、運命ってやつは時々面白いように交わるもんだってそんとき思ったよ
で、うちの機械を直してもらって、話を聞きゃこの町に居座るってんで、うちにおいてたのさ。そして近所のやつらの機械を直してた。
そう、ちょうどその辺で、いろいろやってたなぁ。」職人が指差した先には、ものが乱雑におかれていた。
スズがそこを眺めると、一枚の羽根を見つけた。
羽根は黒く、普通の鳥にしては大きい。天翼族の羽根だ。
スズはその羽根を拾い上げた。
黒い羽根。それは兄、トゥバの羽根だった。
すずは振り返り、ジンに礼を言った。
「ありがとうございます。」
「またトゥバを探しに出るか。会ったら俺のことをよろしく言っといてくれ」
スズはその言葉に答えながら、ジンの作業場を出た。
既に日は傾いていた。港町デストのある西へ。


スズは宿屋に戻った。
気持ちとしては、今すぐデストに向かいたいところだが、体の方が言うことを聞いてくれない。
今日は宿屋で夕食と睡眠をしっかりとり、翌朝デストに向かうことに決めた。
スズが食堂の入り口にさしかかると、お尻を触る何かを感じた。

肘鉄をうつ。
しかし、そこには誰もいない。
見下ろすと、そこにはふさふさの長い耳が二本。
見覚えのある耳である。
「・・・ナーヴァ?」
「おねーちゃ~ん」と、ウサギ耳の少年がスズの腰に泣きながら抱きついた。
「お尻に顔をうずめるのは止めてって言ってるでしょっ!!
「・・・って、ナーヴァ。何でこんなところにいるのっ!?」
「さびしかった~」と、ナーヴァは顔をスズのお尻にうずめたまま返事をする。
スズはため息をつき、向きを変えかがみこんだ。
「まぁ、いいわ。一緒にごはんにしましょ。」
「うん」ナーヴァは顔を上げ、笑顔でうなずいた。
スズはまた一つため息をついた。


イ・ナーヴァ。
彼は兎の耳と尻尾を持つウサギ耳族である。
もちろん、天翼族からウサギ耳族が生まれるわけが無い。
ナーヴァが現れたのは、スズが10歳、トゥバが12歳のときであった。
スズが母親に聞いたところ、野原に落ちてたのを拾われてきたらしい。
わざわざ野原の真ん中に捨てられるわけも無いので、何かの理由があってそこにあったのだろうが、真相はわからない。
誰がその子の面倒をみるかと村で話し合いがもたれた。
そうして、子供を二人とも外に出している(手の空いている)スズの母親の元へナーヴァの世話が回ってきたのだった。
たまにネヴァーフ族の洞窟から帰ってくるトゥバとスズを兄だ、姉だと慕っていた。
その為かどうかはしらないが、耳を羽ばたかせ飛べるようになるのだから、世の中には不思議なことがおきるものである。
その後に、トゥバとスズは家を出ることとなる。ナーヴァを残したままに。


翌朝、スズとナーヴァは宿屋の前に立っていた。
「ナーヴァ。私はこれから行くところがあるけれど、あなたは村に戻りなさい。」と、スズは腰に手をやり、しかりつけるように言った。
「いやだよ。せっかく会えたのに。」
ふくれっ面でナーヴァが返す。
「旅って言うのは、思った以上に危ないんだから帰りなさい。」
「でも、僕ちゃんとここまで来れたよ」と、少し自慢気にナーヴァが答える。
「じゃぁ、ちゃんと一人で帰れるってことでしょ。」
いっそう膨らむナーヴァ。
「だいたいお姉ちゃんより、僕の方が世の中のことをわかっているよ。
そんな格好してるってことは、お姉ちゃん、お金持ってないでしょ。」
「うっ・・・」
確かにスズの財布には銀貨が数枚しかない。あと一度、食事と宿が取れるかもあやしい。
それにナーヴァが言うように、スズの格好はひどかった。
茶色の翼は仕方がないとして、よれよれの灰色のローブに、使い込まれたサンダル。そして、肩まで伸びた髪の上には、くたくたになった黒いつば広帽。
これで手に持ったマスケット銃が杖であれば、まるで魔法使いだ。
まるでではない。スズは正真正銘の魔法使いである。
普段から魔法は一切使わない。スズにしても魔法使いとしての自覚はちっともない。
戦いになれば、魔法ではなく銃を取り、空を飛ぶにも自前の翼がある。
ともかく、スズが魔法使いであろうが、なかろうが、みすぼらしい格好には違いなかった。
それに引き換え、ナーヴァのほうは、ベストにリネンのシャツ、そして首にはリボンまで巻いている。
腰のベルトにはナイフを下げ、柔らかそうなブーツを履いている。

「だいじょうぶだよ。ちゃんとお姉ちゃんの面倒がみれるくらいのお金持っているから。」
スズは顔をしかめた。しゃがみこみ、ナーヴァの両肩に手を置いた。
「ナーヴァ。どうして・・・もしかして何か悪いことをして・・・」
ナーヴァは横を向き目線をそらした。
「なんだい!!僕を置いてけぼりにしたくせに。
お兄ちゃんもお姉ちゃんもいなくなってから、僕がどれだけさびしかったかわかるの!!
今こうやってお姉ちゃんに会うためにいけないこともいろいろやったよ。・・・お姉ちゃんに言えないようなこととか。」
と話しているうちにナーヴァは、目にいっぱい涙をため、鼻をすすりあげる。
スズはナーヴァを胸に抱きしめた。
「・・・ごめんね。わかったわ。一緒に行きましょ。」
スズは兄がいなくなったときのことを思い出しながら、ナーヴァの背中をさすった。

それから、二人は港町デストへ向けて町を出た。


「だめだね。規則で夜は出入りはできない。領主の許可証を持っているなら別だがね。」
門番が無下に断る。

デストは周りを壁で囲れている。四つある入り口のうち最も大きな門の前にスズとナーヴァはいた。
日は暮れ、門の大扉もしっかりと閉じられ、なんびともここを通す気はないようである。
とはいえ、門の周りはなかなか賑やかである。
門から少し離れたところには簡易テントがいくつか張られているし、焼肉など屋台までもが出ている。
冒険者、商人、巡礼者、女衒、警備兵などの人々が思い思いに町に入れなくとも楽しんでいるのだ。

「いいわ。いきましょう。ナーヴァ」
スズはきびすを返すと、門から離れようとする。
そこへ後ろから門番が声をかける。
「間違っても、壁を飛び越えようとせんことだ。打ち落とされるぞ。」
スズは一瞬立ち止まったが、無言でその場を離れた。

スズは門から少し離れた壁を背に座った。
「仕方ないわ。朝まで我慢しなきゃ。」
不敵に微笑みながら、
「僕に任せて」
というと、ナーヴァは走リ去った。

スズが絡んできた冒険者を銃で追い払っていたりして、しばらくするとナーヴァが戻ってきた。
「こっちから入れるよ」
スズはナーヴァにつれられもう一つの門へいくと、門の脇にある小さな扉が開いていた。
ナーヴァはその小さな入り口にスズを後ろから押し込んだ。
スズが扉を抜けると、門番が無言でにらんでいる。
ナーヴァがスズの横をすり抜け、その門番に金貨を数枚渡す。
「さっ、お姉ちゃん。行こう。」
「う、うん。」
スズはわけもわからずにナーヴァのあとをついていく。
スズが入ってきた箇所は、繁華街の裏に当たっていた。
にぎやかな音がかすかに聞える。
そこから、通りを音がする方向へ向かう。
だんだんと音楽や喧騒が大きくなっていく。
大きな通りに出ると、こうこうひかるランプの明かりがもれる酒場があった。先ほどから聞えていた音楽はそこからものだった。
「お姉ちゃん。あれ。」
ナーヴァが引っ張る先、酒場の隣にある建物を見ると、宿屋の看板があった。

ナーヴァは宿屋の受付で手続きを行う。
その間、スズはそのやり取りを見ている。
スズにお金がない以上、こういうときの主導権はナーヴァにある。
うれしそうにお金を払うナーヴァを、スズは頼もしく思える反面、自分のふがいなさと姉として威厳が失われることを感じ、少し落ち込んだ。

「お部屋は取れたよ。二階で、お風呂つきだよ」
「高くないの?」
「だって、お姉ちゃん。お風呂に入りたいって言ってたでしょ。」
「・・・ありがとう」
スズはさびしく微笑んだ。


銅製の浴槽にたっぷりのお湯が入っている。
翼が邪魔で、胸の半分くらいまでしかお湯には浸かれないが、スズは久しぶりの風呂を楽しんでいた。

「お姉ちゃん。翼拭こうか?」
ついたての向こうからナーヴァがたずねる。
「うん。そうね。お願い」
スズはそういうと、体位を変えた。
座るような格好になり、翼を後ろに広げた。
ナーヴァが手布を持って、衝立を退けて浴槽にやってきた。
手布を浴槽の湯につけ、肩甲骨の横から生えた翼の根元を優しくこすった。
「きもちいい?」
「うん」
スズは気持ちよさそうに目を細めた。
それから、ナーヴァは翼を丁寧に拭いていく。片方が終われば、もう片方をと。
そうして、きれいに拭き終わった翼はほんのりと白く輝いて見えた。
「じゃぁ、僕も一緒に入るね」
と、ナーヴァはすでに上半身裸で言う。
「ダメ」
「いいでしょ?ねぇ」
「ダーメ」
「お姉ちゃんと一緒にはいるー!!」
と、ナーヴァが大声を立てたのに少し遅れて、部屋の扉をたたく音がする。
ナーヴァが膨れたままで、扉を開けた。
そこには、湯気を上げるお湯の入った水を気を持った少女がいた。
「替えのお湯をお持ちしました。」
少女は心なしか、笑いをこらえているかのようだった。
「入っていいよ」
ナーヴァが浴槽へ少女をつれてくる。
「替えのお湯、ここにおきますね。」
水桶を置いた少女はスズの広げられた翼を見つめる。
「きれいな翼・・・」
微笑むスズ。
「ありがとう。あなた名前はなんていうの?」
「名前ですか?トヨタマって言います。」
「トヨタマちゃん。私は明日、ちょっと探しものがあるから、明日はナーヴァを見てて欲しいの。なにせ、一人じゃお風呂にも入れないお子様だから。」
トヨタマは先ほどのナーヴァの言葉を思い出し、顔を赤らめる。。
ナーヴァは、
「おねえちゃん」
シシシと、わざとらしく笑うスズ。
「では、これで失礼します。」
トヨタマは部屋を出て行った。

「ふん」
ナーヴァがベッドに飛び乗った音が聞こえた。


ナーヴァは風呂から上がり、貫頭衣に着替えた。
スズが手招きをする。
「こっちに着て座んなさい。ナーヴァ」
言われるがままに椅子に腰掛けるナーヴァ。スズはナーヴァの頭を手布で、拭いて水分を取る。
「私がまだ小さいころ、トゥバ兄さんがこうやって髪を梳いてくれたわ。」
それから、机に置いていたくしをとり、ナーヴァの髪を梳いていく。
「あれは、ネヴァーフ族のところにいってすぐのころだった。それまでは、母さんがやってくれてたんだけど。」
ナーヴァも、僕もと同意する。
スズは、くしで耳を傷つけないように、耳の周りの毛を丁寧に梳く。
「そしたら、兄さんがやってれたの。でも、兄さんもそれまで母さんにやってもらってたから、下手くそでとても痛かった」
スズが前、左右、後ろと梳いていくと、ナーヴァは気持ちよさそうに目を半分とじ、耳をぴくぴくさせている。
「それから数年は毎日、兄は私の髪を梳いてくれた。
「兄さんは優しかった。
そういえば、私が地下の地割れに落ちそうになったときに・・・」
ナーヴァはもう寝息を立てていた。
スズはナーヴァを抱え上げ、ベッドに寝かせた。
「おやすみ」
そういうと、ナーヴァの横に並んで、横になった。
部屋の外からは、音楽が聞こえている。
「明日は兄さんをさがさなくっちゃ」
スズは目を閉じた。



翌朝、スズが目を覚ますと、既にナーヴァはベッドにはいなかった。二回の窓から下を見ると、ナーヴァがトヨタマと一緒に薪を運んでいた。
スズは微笑んだあと、出かける準備をした。

スズは港に来ていた。
通りすがりの人々に、道を聞き聞き、港湾事務所についた。
港湾事務所は、二階建ての建物で、一階は通路で、二階が事務所になっていた。
スズは海の見える窓の隣の、やせた事務員に尋ねた。
「次のヘルクント行きの船はいつ出ます?」「三ヶ月後だよ。お嬢さん」
「じゃぁ、その前の船はいつ出たの?」
「ヘルクント行きの船なら、今しがた出たばかりだ。」
窓の方を羽根ペンで刺す。
窓の向こうには、ゆっくりと沖に向かう船。
「まぁ、その羽根が飾りじゃな・・・」
最後まで聞かず、スズは事務所を飛び出した。
港へ向かって走る。
(ごめんね。ナーヴァ)
(でも、あの船に兄さんが・・・)
すれ違う人々とぶつかりながらも、駆けていく。
「いてぇ!!」
「あぶねぇなぁ。」
「あっ、煙・・・」
「何をそんなに急いでいるんだい・・・」
スズはわずらわしい地上を逃れるために、翼を使い舞い上がる。
翼を羽ばたかせ、船を捜しその方角へと飛んだ。
一瞬後ろを振り返る。
一筋の煙が上がっている。
体をそちらに向け、目を凝らして見ると、それは昨日に宿泊した、まだナーヴァがいるはずの宿だった。
「・・・燃えている?・・・・ナーヴァ!!」
かなたに行く船と、煙の上がる宿。二つを交互に見る。
決心して、宿屋へ、ナーヴァーの元へと向かった。

宿屋へ着いてみると、火は宿全体に回っていた。
そして、スズが宿泊していた部屋の窓に人影が見える。
炎の揺らめきの合間にふさふさの耳が見えた。
「ナーヴァっ!」
「お姉ちゃん・・・・ゴホッゴホッ・・・」
「すぐ行くから。待ってなさい」
地上に降り、宿屋に水をかけようとしている男から水桶を取り上げ、すぐさま飛び上がる。
空中で頭から水をかぶり、ナーヴァのいる部屋の窓にまっすぐに飛び込んだ。
飛び込んできたスズをナーヴァが飛びのいてよけた。
スズは体制を崩したもののなんとか怪我もなく、部屋に入った。
「ナーヴァ。大丈夫だった。けがは?」
「だいじょーぶ。でも、火で下りられないよ。」
スズが振り返って飛び込んできた窓を見ると、もう炎で半分ふさがれている。
「いい。ナーヴァ。今から、炎を一瞬消すから、窓から飛び出すの。できるだけ遠く。」「うん。・・・でもおねえちゃんは?」
「平気よ。まだずぶ濡れだもん。」
「合図をしたらすぐ飛び出すのよ。」
窓に近づくと、炎がスズの顔をなめそうになる。

スズは三歩下がり、翼を羽ばたかせる。しかし、その動きは飛ぶための動作ではない。風を起こすためである。
風が舞う。スズの腕が風を捕まえ、手首をひねらせ風のうねりをあげていく。スズの魔力で風が緑や紫や赤の色を帯びだす。
風と一緒に両腕を胸の位置に上げる。
「エアリアル・スラッシュ」
声と同時に両腕を前に突き出した。
その両腕から放たれた風の刃が炎を切り崩す。
「ナーヴァ!!」
ナーヴァは持ち前のすばやさで、床、窓枠と駆け、空中へと飛び出した。
墜落する寸前にナーヴァは耳を羽ばたかせ、ゆっくりと降下していく。

「ウサ耳が飛んでる。」
「いいぞ、ぼうず。」
「がんばれー」
野次馬からも思い思いの声がかけられた。

スズはそれを確認して、周りを見回す。
「さて、もう魔法を唱えてる時間はないわね。」
もう翼も乾きかけていた。
スズは覚悟を決め、一つ大きく深呼吸する。
顔を腕で覆いながら、窓から飛び出した。
髪が焦げる嫌な匂いがした。
翼の先がちりちり痛む。
翼に力がこもらない。
羽ばたけない。
落ちる。

そう思ったとき、落下が止まった。
腕をつかまれてゆっくりと、落ちていく。
「にいさん・・・」
スズが見上げると、歯を食いしばり、精一杯に耳を羽ばたかせているナーヴァがいた。そして、目の前が暗くなった。

宿屋は完全に炎に包まれ、屋根の梁が燃え落ち、壁が崩れる。
そんな中、炎の中に二枚の羽根が舞っていた。
黒と茶色の羽根。二枚の羽は近づいては離れ、また一つに、くるくると上空へあがっていく。
そして、灰になり、散った。


「うーん」
スズはベッドに寝ていた。
髪も先の方は、ちりちりになっている。
翼はところどころは、焼けた部分を除いて軸だけの羽もある。
「お・ね・い・ちゃんっ。おきてる?」

「はい、頼まれてたはさみ
「ありがと」」
ナーヴァはそう言って、はさみを渡す。
「おねえちゃん。いつまで、落ち込んでるの?」
スズは髪を無造作につかみ、受け取ったはさみでざくざくと髪を切っていく。
「これからどうするの?」
スズはナーヴァの質問にも答えず、髪を切り続ける。
唐突にスズが話しかける。
「そういえば、トヨタマちゃんはどうしたの?」

「うん。宿屋の主人が宿屋がなくなったんで、別のことをはじめたみたい。だからトヨタマちゃんもやめさせられたみたい。」
だから、今どこにいるかわからないんだ。」「そっかぁ。残念ね。ナーヴァ」

髪を振って頭に残った毛を落とした。
「どう」
スズの髪はショートボブになっていた。
「すごくいい。前よりいいよ。」
「そう、ありがとう」
そして、スズは勢いをつけて、ベッドから立ち上がった。
「よーし。次のヘルクント行きの船が来るまで、旅費をためるぞーっ」
「おーーっ」
拳を突き上げる二人だった。

(了)

ちゅーわけで、これといった山場もにゃく終わりにゃ。
感想を書いてくれるとうれしいです。
苦言とか書いてくれると、次につにゃがるにゃぁ。

次回はシティーアドベンチャーにゃ。
今回張った小さな複線をどう処理しようかにゃぁ。




最後に、キャラクターの出演を快く許してくれた'emethさんには心から感謝いたしますぅ。


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Category : かきもの |

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